上田城藩主お抱えの漆塗り職人だった花岡家が生み出した「花岡塗」を今に伝える、上田市の「ぬしや小林」(中央西=木町)の小林健二さん(49)は5日、真田家の家紋『六文銭』が描かれた「花岡塗の座卓」(先代作)を市内中央北の真言宗智山派大智山金剛院海禅寺へ奉納した。
ぬしや小林は、「上田の花岡塗」の技術を再興した初代・小林里一郎さんが昭和2年に創業し、二代目の泰夫さんがその技術を継承。「子どもの頃から父の働く姿を見てきた」という健二さんは、「昨年亡くなった父の技術を受け継ぎ、今は三代目と言ってもらえるよう精進している」と、塗師としての歩みを進める。
奉納した机は父・泰夫さんが「花岡塗」の文様を六つ、『六文銭』を二つ、真田氏が替紋として使用していた家紋『結び雁金』を四隅に塗り施したもの。長年の保管により傷んだところがあったため、健二さんが補修した。
海禅寺は戦国武将・真田昌幸が上田城の鬼門除けとして建立され、寺紋は『六文銭』だ。今回の奉納はその『六文銭』が描かれていること、そして小林家が代々縁を紡ぎ、健二さん自身が同寺運営の認定こども園・芙蓉園(旧芙蓉保育園)の卒園生であることなどによるもの。
机が本堂へ運び込まれると、飯島俊勝住職は「ご本尊にご報告させていただきます」と法要を営んだ。そして「上田の職人の真心が伝わる貴重な御品を大事に使わせていただきます」と、お礼の言葉を述べた。
また俊哲副住職は、同寺に初代・里一郎さんが昭和42年に奉納した「焼香机」があることを伝える。健二さんはその机を見ると感激した様子で「磨かせていただきます」とし、「祖父・父が塗った品が市内のお寺様に保管されていることを嬉しく思います。使っていただくことが塗師屋としての喜び。奉納した机も日常的にお使いください」と話した。なおこの日は机の他に膳や菓子器など4点も寄贈した。
【「ぬしや」とは】江戸時代から用いられた漆塗職人の古称。また「花岡塗」は上田藩主・松平家に召し抱えられていた花岡氏により、江戸後期に始まった上田独自の漆器。「塗り」と「研ぎ出し」を高度な技術で行い、金箔と黄・緑・赤・茶・黒の漆の模様を浮き上がらせる。極めて華美で斬新な色彩が特徴だ。